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矢野静明作品展●更新されない地誌

2005年 3月 19日 (土)〜 4月 3日 (日)

ギャラリートーク 「ゴッホと表現について」
矢野静明 vs 中津川浩章 (現代美術家)
3月 27日 (日) 午後 1時 30分より

更新されない地誌

 ゴッホは自らの作品の数点に「装飾画」と、思いを込めて命名した。私たちは「装飾画」を決して美術の最良の表現として語らない。矢野静明氏はゴッホを通し、「装飾画」なるものの概念に遭遇する。近代が悪しき表現として脇に置いた「装飾画」をゴッホを介在させながら丁寧に発掘する。その表現の考古学はゴッホとアフリカやアジア、オセアニアの織物や刺繍、そして矢野氏自身の表現を、表現活動の本源的な場に導く。
 
 ゴッホは矢野氏がゴッホ論で論考した「絶対的な無力」そのものを生きた画家だ。なにごとも成就しない無力感、その傍らに身を置くしか無かった者の、ある種のエネルギーから生まれた作品がゴッホなのだ。少数民族の装飾行為とその産物は、自然に放逐され、或いは自ら自然を去った人の不安が見える。不安の影が装飾を生んだと言っても過言ではない。失った自然に回帰するためにも、より人工的になってします心の亀裂が、皮肉にもキリムやタパの美しさを生んだのだろう。すでの私たちの文明は装飾行為を形骸化し、その多くを失ってしまったが。
 
 矢野氏の作品には、ゴッホと名も無い人々の装飾物に対する、親和性が見られる。
 
 「絵画以前の問いから」と題された矢野氏のゴッホ論が上梓された。いみじくも「絵画以前の問いから」という言葉に、矢野氏とゴッホを結びつけるキーワードがある。生きることの不安や無力が生む根源的な表現へ、深く降りてゆくと「絵画以前」から「絵画」が時代の狭雑物を振り払って、上がって来るのが見える。
 
 「装飾画」とは装飾する行為にだけに意味があるのではなく、何かを荘厳する心性のやって来る方に、感覚を踏み出すことから生み出されるものだろう。
 
 矢野氏の作品には「更新されない地誌」や「明けない夜明け」のような遊牧民的感覚がある。その感覚は、ゴッホの白熱する無力と歩を共にしながら、他の地平をゆく感覚だ。「更新される地誌」「夜明け」という墜ちた文明とエセ希望に回帰することのない、現代の遊牧民としての感覚だ。そこに生まれる静謐と自由を、他の作品は確固とした物質性の中に滲ませている。


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