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 ソフィアまで

 外国に行くと、いつも感じることがある。そこに住む人たちの持つ「土地の重力」だ。「生きる根拠」と言ってもよい。

 ブルガリアの首都ソフィアに滞在した。静岡大学と学術協定を結ぶ中東欧十一カ国との国際会議「インターアカデミア」に出席するためだ。アカデミアは今年で十二回目。国の垣根を科学が越える、そのような親近感と柔らかな雰囲気にあふれている国際会議だ。

 ソフィアはヨーロッパ最古の街。ソフィア大学のたたずまいも、その歴史に合わせたように荘重な趣が漂っていた。ブルガリアは経済の先端の国ではない。が、キャンパスを歩くと、「学ぶこと」と「経済」の本来のあり方への、痛切な反語を日本に感じた。

 ソフィアは「人」と「自然」そして「文化」が、ごく自然に共存している。ゆったりとしたトロリーバスと市電が、行く。人の歩みも、時を忘れたように見える。大きな木が街を囲むようにあるからか、人や物音が静かだ。日本は喧噪(けんそう)の国だとあらためて思う。経済がどんなに膨らんでも、人の精神はいつか劣化する。将来、人間が生き残るのは、ブルガリアのような国かもしれないと思えた。

 


学会会場


ソフィア大学

     

リラ僧院


晩餐会

 

 朝、ネフスキー教会を標にして大学へ向かう。ひすい色をしたこの教会はビザンチン様式の高い塔を持っている。その近くには時代と様式の異なった教会が、寄り添うようにある。歴史と動乱、異民族との戦いの影を見る思いがした。「信仰」を支えにしか人は生きられなかったからだろう。ブルガリアは独特の文化を持った国だ。トルコやギリシャに隣接するためか、それぞれの国を反映した食文化がある。エスニックな料理と、ヨーグルトやなぜかキュウリを使った郷土料理が、毎日食卓に上がった。

 複雑に交じった文化や思想を、この国は、「拒む」のではなく穏やかに「受け入れ」ている。歴史の底の方では、つらいものを経験したであろうが、ソフィアの街には微塵(みじん)も、その気配はない。それは「生きる力」の意味だと、私は感じるのだ。  大統領のレジデンスで行われた晩餐(ばんさん)会=写真右が著者=では、民族音楽に合わせてブルガリアンダンスが披露された。人々が、そのダンスの輪に参加する。手に手をとって。幾重にも輪が広がる。ブルガリアのおいしい赤ワインに染まりながら。


中日新聞 しずおか時想
2013年11月20日掲載

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