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マティス「ダンス」

 昨夏、サンクト・ペテルブルグの大学から「日本の文化」についてのレクチャーの要請があった。白夜の季節であった。訪れた街のエルミタージュ美術館に、マティスの「ダンス」はある。色彩は大地の緑と空の紺青、そして人間を描く赤。生命のリズムそのものだ。人の体は重い。なのに、重力に逆らってまで人は「踊る」。踊ることは、歌うことと似ている。それは生きることの重さから、人を救ってくれるからだろうか。
 マティスはカラーリスト。彼の作品の前では、ピカソの色彩でさえ色あせて見える。だがそれだけであろうか。私には、彼の色彩感覚を導いたのは、フォルムへの飽くなき意思であったと思える。晩年絵筆を握れなくなったマティスは、鋏で紙を切って表現した。微妙な色の配分ができない状況なのに、絵筆で描いた作品と遜色ない。それはフォルムがもたらす「美」の恩恵を、彼の手が知っていたからだろう。

 

浜松百撰 2009年1月号

 

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