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新時代に羽ばたく人づくりを目指して 〜教育現場の理念と実践〜▼座談者
石田邦明氏 : | 浜松西高校・中等部校長。静岡大学−金沢大学大学院を卒業。高校教諭に。県内各高、静岡県教委勤務など経て、昨年4月浜松西高校中等部の初代校長に。専門は数学。 |
中西美沙子氏
: | 教育コーディネーター。執筆・講演活動とともに文章教室スコーレを主宰。昨年まで中日新聞にコラム「つかまえて!こころ」を連載 |
− 国が進めている教育改革で、個性を重視した独自の教育や新しいカリキュラムを取り入れる学校が増えています。中でも話題を集めているのが「中高一貫教育」。昨年には、公立高校で県内初となる中高一貫教育を浜松西高中等部がスタートしています。そこで今回は、全国モデル校として注目されている浜松西高等学校中等部の初代校長先生石田邦明氏と教育コーディネーターの中西美沙子氏をお招きし「新時代に羽ばたく人づくりを目指して〜教育現場の理念と実践〜」をテーマに対談していただきました。
<画一的な教育方針見直してトップリーダーを育てたい>
中西 | 1947年に現在の6.・3・3制が出来半世紀が経ちました。なぜ今、中高一貫教育なのでしょうか?6・6制にはどんなメリットがあるのでしょうか? |
石田 | 臨時教育審議会以後の教育の流れの中で、まず衝撃敵であったのが14期の中央教育審議会の答申内容。そこで言われたことは、戦後の日本の教育の評価でした。戦後の発展を支えたのは教育の力。特に小・中・高の教育と思いますね。高校進学率は97%に上ります。
日本の教育の特色としてこの答申でいわれたのが「効率」と「平等」。試験で効率良く分け、いろいろな学校へ行く、そこでは同じような教育が行われてきたのです。 |
中西 | はい、確かに。日本の初等・中等教育のレベルの高さは世界の評価ですね。でもその中に問題点はなかったのでしょうか? |
石田 | 答申の中で指摘されていることもあります。その問題というのは、不登校・中退の問題や非行です。また日本人からノーベル賞を受賞する人がそれほど多くない、ということなどですね。創造的な仕事をするトップリーダーを育てているのか。日本の教育は効率と平等を求めて画一的でありすぎたのでは、という問題ですね。 |
中西 | 私も長い教師生活の中で、そこが一番気掛かりだったところです。 |
石田 | 少し枠を外し、制度も弾力的にいきましょう・・・というのが改革の始まりだと思います。
高校で、普通科と職業科の間に総合学科を作りましょうというのもその一つ。 そしてもう一つ出てきたのが、6・3・3がこれでいいのかということ。3・3を結ぶ時期に受験がある。だからゆとりがなく思春期に精神的な抑圧を加える。それでいろいろな問題を出してしまう子どももいるのではないか。これを3・3と分けないで6年間一貫で教育できないか、ということで提案されたのが中高一貫教育です。 |
<子どもたちが成長する時期に6年間継続して教育できる>
石田 | さて、中西先生に聞かれたメリットはというと、昨年はこう言っていました。「高校入試がないことでしょう」と。ところが高校入試がないと中だるみするのではないか、と言われる。それは学校の教育力の問題で、心配ありませんが、私は2年目から言い方を変えました。「子どもたちが精神的にも、体力も知能もすごく成長する時期に、切って教育するのではなくて、一人の人間を6年間継続して育てられるということです」と。一貫した教育方針のもと、6年間見通しを立てて教育することが一番のメリットだと思います。 |
<日本を支えてきた教育、支えきれなかったことも>
中西 | 今の教育制度の現状では私も中高一貫は良いことだと考えます。現在の日本を支えたのは教育というのはわかりますが、同時に支えられなかったこともあります。
モノはここまで豊かになったのに、なぜ人は幸福そうに見えないのか。なぜ子どもたちはかくも荒廃し、少年犯罪は起こるのか、という問題です。それはどこから来るのでしょうか?多分それは私たちが作った社会の中に潜んでいるのでは、と思えるのです。
私たちが育ててこなかったもの、失ったものをどうやって獲得していくか。それは家庭でも学校でもできると思いますね。先程のノーベル賞の問題。創造性や考える力がなぜ育たなかったかも、そこに問題があったのではないでしょうか。 |
<上級生と下級生、コーラスを通じた「交流」もメリット>
中西 | 私は自分の文章教室で、書くことを通して「考える力」や「創造力」を育てています。とても面白いですね。子どもというのは。中高生はモノを考える力がグングン伸びますし、小学生は直感的にものの本質をとらえる力を持っている。可能性はどの子にもあるとつくづく感じます。その可能性の鉱脈を見つけてあげるのが、私たち大人であり、教師ですね。今まではどうも、その芽を摘んでいたような社会だったと思えるのですね。
それは「受験のためだけに勉強する」という受験体制の問題。親も学校もひとつの方向だけを向いているとしたら、そこに乗り遅れた子は居場所を失います。非行やいじめ、引きこもりなども、そこに遠因があるのでは。
本当は、勉強も絵を描くことも、運動ができることも、等価であるはず。学ぶことの中に、発見や好奇心が生まれると子どもたちはパッと輝きますね。 西高中等部の現状はいかがですか?この前西高に行ったらのびやかなコーラスが聞こえてきましたが。 |
石田 | コーラスコンクールの練習なんです。朝、休み時間、放課後、学校のいろいろなところから聞こえてくるんです。伝統行事として行っているのですが、見事ですよ、これは。 |
中西 | 本当ですね。びっくりします。むつかしい合唱曲のコーラスがあちこちから聞こえて。中学生も高校生もみんな楽しそうですね。本当にどの子も元気で、いいですね。 石田 高校生のパワーを中学生が見ている。「私たちも、ああなりたい」。逆に高校の生徒は「中学生もなかなかやるなあ」。つまり中高一貫のもう一つのメリットが交流」です。いい感触でお互いを見ていますね。 |
<いろいろな体験をさせて2+2+2=7教育を実現>
中西 | 西高として中高一貫で目指しているものは? |
石田 | 西高のパンフレットにあるように「大地に根を張る骨太の教育」です。これは保護者の要望と、私の教訓から。子どものころ、建設関係の仕事をしていた父にダム工事の現場に連れていってもらったんです。「もうこれで半分以上、できてしまったよ・・・」。見たら下にコンクリートがあるだけ。「ダムを作るには道路を通したり、いろいろな準備が必要。そして一番大切なのが土台作りだよ」って。基礎・基本は木に例えたら根を張るということ。 |
中西 | 基礎基本は大事ですね。そしてその上にどのような建物が建つかというヴィジョンがあった時。それは一層意味をもちますね。 |
石田 | 今年は2+2+2=7の教育といっているんです。中学1,2年生で基礎基本、次の2年間は幹を太くする充実期、そして最後の2年間を花を咲かせる発展期と分けています。幹を太くする時期はいろいろ体験をさせることが特に大事だと考えます。中高一貫では精神的、時間的なゆとりができる。私はこれを利用して、幅を広げる、独自のプログラムを入れていきたい。
一つだけ例をいうと、考える力を付けるには本を読むのが大切です。そこで中等部100選、高等部100選の中から6年間で100冊読みなさいということを言っています。 |
<「知識」や「技能」も大切だが自分で考える力を持って欲しい>
中西 | 視覚メディアと違い、読むということは少なくとも自分の意志が働く行為。想像力・考える力が失われているとしたら、一番いい方法は読むことと書くこと。私も2+2+2は7にも8にもなると思います。
「学びからの逃走」ということが言われます。早くから自分の能力や未来をあきらめる子どもも出ています。受験やテストで失敗したら君の前途はないんだよ、と言われるわけです。しかし「学ぶ」ことは知識の量を増やすことだけではない。福沢諭吉が、「学問のすすめ」の中で「学ぶ」ことについて語っていますね。「実学」と彼は言っていますが。学んだことを実践の中にいかさなければ、本当に「学んだ」ことにはならないと。それが原点ではないかと。何か好奇心や興味を持つきっかけを作ってくれる学校であってほしいと期待します。ところで、石田校長先生が行っていることで私が感動したのが、昨年の夏休みの”校長先生の宿題”。「今まで人類が発明・発見したもので一番影響を与えたものは何」という作文でしたね。生徒の反応は? |
石田 | 学校教育の中で、大切なものを2つ挙げると「考える力」と「感性」。これからの厳しい時代「考える力」がないと絶対やっていけないと思います。知識や技能も大切だが、一番根本になるのが「自分の考え」をもつこと。
私の宿題はインターネットで調べてもいいし、お父さんお母さんに聞いてもいい、本を読んでもいいけれど、最後は自分の考え、自分で考えたことを書けと言っています。生徒からは本当にいろいろな意見が出て面白いですね。これを積み重ねることで成長していくと期待しています。
父兄からは宿題が大変・・・。それは考えなければいけない宿題が多いからといわれています。(笑) | 中西 | 考えたことは必ず力になると思います。ぜひ、続けていただければ。 |
石田 | 中高一貫教育は当然いいはずだということで始まったわけですが、私自身、オールマイティで100%良いと思っているわけではありません。ただマイナスはできるだけ少なく、プラスの部分は倍にしましょう。こういう挑戦を大胆にしよう。メリットが出るチャレンジがしたいし、それを全国に発信していきたいですね。 |
−どうもありがとうございました。 浜松西高等学校中等部開校1周年
2003年7月31日 [ ←back ] |