中西美沙子
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好奇心を育む

▼座談者
古木佳和氏 :
「浜北少年科学クラブ」代表
県教育委員会、浜北西高校・芥田学園などの校長を経て、現在は浜北教育事務所。同クラブでは、静岡県教育委員会表彰、浜松市教育文化奨励賞など受賞。
町田謙吾氏:
「浜北少年科学クラブ」指導員
小学生時代に「浜北少年科学クラブ」に出合い、中学生のころから、同クラブに参加。現在は浜松市内の楽器メーカーに勤務しながら、星座観察などの指導を行う。
袴田優里子氏:
大学生
早稲田大学(文)1年。慶應義塾大学主催「小泉信三賞」はじめ、数々の論文コンテストで受賞。
野田大将氏:
中学生
国連主催「世界の飢餓を考える」作文コンクールで最高賞・WFP賞など。サッカー部所属。
中西美沙子氏 :
教育コーディネーター
執筆・講演の傍ら文章教室「スコーレ」を主宰し、11月には中日新聞に連載していたコラム「つかまえて!こころ」をまとめた「ピアニシモでね」を東京書籍より出版。



<子どもは好奇心のかたまりそれを育むのは大人>
中西
 子どもが好奇心を持つことは、その子どもの人間としての心を育む原点。「浜北少年科学クラブ」(以下科学クラブ)を長く支えてこられた経験から、どんな時に子どもが好奇心を持つかお話しいただけますか?
古木
中西美沙子氏 子どもは好奇心のかたまり。不思議のかたまり。珍しいものや未知の現象を見た時に「おや?」「あれ?」という気持ちが起こり、目が輝きます。科学クラブでは、星を見ながらそういう疑問を解明していく楽しさを体験してもらっています。
中西
 科学クラブでは「8センチの望遠鏡から宇宙の神秘を」という活動を30年間も続けてこられ、子どもたちの好奇心や興味を広げていますね。
古木
 星を見る集い」以外にも、天竜川の岩石を調べたり、山歩きや自然観察などしているのですよ。最初は無関心な子も「どうして石は丸い形や、平べったい形をしているのかな?」と問いかけると、好奇心がわく。石の下には、虫がいたり、ひとつの好奇心が発端になって、次から次へと新たな世界が広がります。
中西
 町田さんが科学クラブに参加されたきっかけは?
町田

 小学生のころに父親に連れられて。望遠鏡で実際の星を見た時わくわくして、終わっても帰りたくなかった。そういう記憶が今でも強く残っています。

中西
 好奇心は、自分の未来につながる原点にもなります。東京大学で地球惑星科学を研究されている杉田精司助教授が書いておられました。「私が地球や宇宙に興味を持った原点は、小学校のころ通った『浜北少年科学クラブ』」と。町田さんは今ではクラブのリーダーですね?
町田
中西美沙子氏 はい。知識も大切ですが、生の「体験」は、もっと大きなものを心に根付かせ、好奇心の土台を作ると思いますね。目では見えない「アンドロメダ星雲」を望遠鏡で見た時、驚きました。そういう星が天体にはもっともっと隠されている。探して見たいと思いましたね。子どもたちにもそういう世界を教えたい。
中西
 自分がおもしろいと思ったことは、子どもにも確実に伝わりますね。私も分野は違いますが「言葉」を通して、生徒たちが好奇心を持てるよう育てています。今の時代は合理的で、乾いた考えが社会にまん延しています。勉強も受験のため。本当は好奇心があってこそ、子どもたちの学力や人間性が育まれると思うのですが。

<言葉の贈りもの「好奇心」>

中西
中西美沙子氏 袴田さんは、不登校の時期がありましたが、「書くこと」で乗り越えましたね。書くことは、客観的に自分を見つめることです。言葉をつづりながら、あなたは家族の支えや自分の痛みを見つけましたね。その考えた結果が、さまざまな論文コンクールでの受賞です。
袴田
 表現することで、見えなかったものが見えてくる。人でも物でも。それは世界が少しずつ見えてくる楽しさでした。
中西
 あなたが受賞して慶応義塾大学のポスターになった時、そこに書いていますね。「書くことが自分を、世界を見つめることだと知りました。書くことが私は『未来を生きる力』を得ているように思えるのです」と。
袴田
 そう思っています。
中西
 野田君は勉強もがんばっていますが、学校ではサッカー部で活躍する元気な子。国連の飢餓作文で最高賞を受賞したり、環境作文の入選のご褒美にドイツに視察に行ったりしました。言葉で自分の世界が広がったと感じることはありますか?
野田
 書くことに挑戦していると、言葉が人に正確に伝わるよう意識するようになりました。すると人の気持ちや心の動きが前より分かるようになって、友だちとも深く付き合えるようになった気がします。ドイツでは、外国の友達もでき、日本にはない環境への取り組みも知って、視野が広がりました。

<褒めることが、子どもの興味の扉を開く>

中西

 どうしたら好奇心を育むことができるのでしょう?

古木
 「これは何だろう?」という疑問を子どもが持った時、大人が少しプッシュしてあげるといいですね。例えば虫を見て母親が「汚い!」と言うのではなく、「どんな虫?」「ちょっと図鑑で調べてみようか」「あの博物館にも虫がいるみたい。行ってみる?」と興味をつなげる扉を開けてあげる。すると好奇心が広がります。子どもは興味を持っても、次の瞬間には忘れてしまうことが多いですからね。
町田
 テレビやパソコンより、「体験」することが絶対的に大切。例えば星を見るときも、本やプラネタリウムではなく、本当の星空を見てみることで好奇心をかきたてられるはず。星は見えないこともあります。その「見えないこと」も、また体験なのです。パソコンと違って自然は人間の思い通りにはなりません。
中西
 私が主宰する文章教室では、良い所は逃さず褒めるようにしています。誰にも可能性の芽はあり、そこを伸ばすのです。それから大人自身に感動がないと、子どもにその感動は伝わらないと思いますね。まず、親や先生自身が何かに興味を持って、楽しく生きることが大切なのではないのでしょうか?
古木
 同感ですね。大人の好奇心が、子どもの好奇心を育てるのですね。
中西
 袴田さんは早稲田大学で、臨床心理学を学びながら、鳥人間クラブや映画サークルに積極的に参加していますね?
袴田
中西美沙子氏 大学生になるちょっと前から、自分の気持ちを大切にしたいと思うようになりました。やりたいと思うことは全部やろうと。それが自分を大切にすることなのかなぁと。
中西
 野田くん最初から、とても好奇心がある印象を受けた子です。ご両親は、あなたにどんなことを言いますか?
野田
中西美沙子氏 僕はサッカーに夢中。でも親は勉強をしなさいとは言わない。僕にとって良いと思うことを中心に考えてくれているのだと思います。バランス良く、好きなことや勉強ができるようにアドバイスしてくれます。
中西
 野田君のご両親はお医者さまですが、テストの点数を伸ばすことより、物を組み立てて考える「構築力」を養うことが大切と、以前話しておられました。
古木
 子どもは幼いほど、現実の場所や時に身を没入させて学んでいる。今は体験を通してものを考える「場所」や「時」が不足しています。だからこそ学校や家庭、地域でも力を貸さないといけない。
中西
 好奇心の受け皿が大きいほど、子どもは生き生きと大きく自分を成長させますね。元気いっぱい遊ばせ、何気ない体験の積み重ねの日常の中で子どもは育っていくと感じます。「空がきれいね」「こんなに湖が汚れていて、魚がかわいそうね」と、ちょっとした言葉をかけることが、子どもの情緒や好奇心を育むのでは。
古木
 体験して、好奇心を燃やして、それを解き明かそうと次々に扉を開く。その扉に終わりはありません。ある分野に特定して扉を開けば専門的になり、そうではない場合にも、人生は非常に広がります。そして応用力のある「確かな学力」にもつながるのではと私は思います。なるべく幼いころから好奇心を育むことは、人間力が育つことでもあるのですね。
中西
 おもしろいから勉強する。好奇心が裏づけられている時には、創造力も育ちます。最近の少年犯罪や家庭崩壊は、ひんやりとした人間関係が生まれることが原因だと私は思います。「教育」とは「教え育てる」と書きますが、現代では「教える」ことが多くて、愛情をもって「育てる」という観点が弱いのでは。冷めた人間関係を解決していくためにも、子どもたちの好奇心は大変重要だと感じます。ありがとうございました。

中日ショッパー 教育特集(5)
2005年11月24日掲載

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