中西 | 上野先生が文化政策を専門になさるきっかけは何だったのでしょうか。 |
上野 | 現代のコミュニティーの崩壊をなんとかしたいという思いからです。かつての日本は地域で子どもを育てていました。近所に「こわいおじさん」がいたものです。地域全体が教育力をもち、林さんがおっしゃった「住育」のように「地域育」が広がればいいなと思います。 |
中西 | 先生は浜松の都心再生会議の座長をなさっていますね。街づくりと人間については、どんな考えをお持ちですか? |
上野 | 街は、生活の舞台です。生活することで自信と誇りが持てる街が理想です。街にはいろいろな顔があります。大学の近辺で見ると、東小学校は教育空間、アクトシティは消費空間・文化空間、市役所や銀行はサービス空間です。それらを総合的につないだものが、価値が高い街だと考えます。そんな街づくりが理想です。 |
中西 | 確かに街の空間環境を整えることは、人間の心をつくることにもつながりますね。子どもの世界を考えた街づくりをしてほしいですね。 |
上野 | 文化政策から考えると良い街は生活の質が高い。子どもの生活の質とは、「学ぶ」「遊ぶ」「健康」。ところが今はそのバランスが崩れている。主な原因がゲームや塾。子どもが公園に遊びに行ける状況をつくる社会になっていない。 |
林 | そうですね。私たちのように家を作る立場の人間も、1つの敷地内で家と塀で完結する形で作っているのが現状。今考えているのは、5軒から10軒ぐらいの家で共有できる空間。環境を考えた「エコ・ヴィレッジ」を作り、子どもたちが遊べる家づくりができたらと考えています。 |
中西 | 子どもは本来遊びの天才です。その才能を生かす空間作りが必要。今の街づくりが、子どもの想像力を意識しているか疑問を感じるのです。例えば街路樹の植え方。同じ高さの木を等間隔で植えてあるのがほとんど。所々、大きな木を植えれば、その下にさまざまな人たちが自然と集まってくるのではと思うのですが? QOLを考えるには、意識変革が大切ですね。 |
上野 | 今は着実に価値観が変わりつつある。お金をたくさん稼ぐ人もいれば、一方でお金がなくてもボランティアをする人も増えている。例えば公園を作る場合も行政がプロを集めて設計し、遊具や花壇を決める。昔は住民が集まり地域で公園を手作りし、愛着のある場所だった。現在でも地域の人が花の手入れをする場所もありますが、一方で花が枯れると市役所に苦情を寄せる人もいる。自分たちの手で花を手入れしようとする市民を増やす教育も大切ですね。 |