中西美沙子
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環境と文化が育むものたち
  〜創造力を回復するところから〜

▼座談者
上野 征洋氏 :
早稲田大学卒、東大新聞研究所修了。法政大学講師を経て、2000年静岡文化芸術大学教授。2004年副学長。著書に「コーポレート・コミュニケーション戦略」(同友館)ほか。
林 司朗氏 :
金沢市生まれ。芝浦工業大学建築学科卒。1991年ニューハウス静岡設立。2002年ガイアホームに社名変更。「家族の絆をはぐくむ住まい」をテーマに住宅づくりにまい進。
浜松市PTA連合会会長
中西美沙子氏 :
執筆・講演の傍ら文章教室「スコーレ」、画廊「キューブ・ブルー」(浜松市元城町)を主宰。著書に中日新聞に連載したコラム「つかまえて!こころ」をまとめた「ピアニシモでね」(東京書籍)。


─時代の流れとともに、私たちを取り巻く環境や文化は変化しつつあります。特に子どもたちにとって、毎日を過ごし、学び、遊んだ環境は、その後の生き方に大きく影響を与えます。そこで住環境を専門とするお2人に、子どもを育む環境と文化の在り方について語っていただきました。─

中西
 上野先生の「文化政策」は、範囲の広い学問ですね。今日は、家族や子どもにとっての環境や空間意識に絞って、お話しいただきたいと思います。「文化政策」とはどんなものでしょうか?
上野
 日本では、70年代後半から「豊かさとは何か」と議論されるようになりました。豊かさとは経済的なものだけではなく、心の問題を考えようと「文化政策」という言葉が生まれました。簡単に言うと「この街で暮らして良かった」と思えるような、幸せになる仕組みを考えるということです。
中西
 このころ、経済や合理性優先という日本人の生き方に拍車がかかっていますね。
上野
 豊かであることイコールお金があることでしたが、今の若い人たちを見ていると、給料より「やりがい」「働きがい」のために働く人たちが増えています。例えばボランティアや街づくりで汗を流したりするように価値観が変わってきました。これは行政ではクオリティー・オブ・ライフ(QOL)と言っています。QOLを考えることが文化政策につながるのです。
中西
 林さんの会社は「住育」というコンセプトで住宅を提供していますね。

 私どもは、単に器を作るのではなく、「家族をはぐくむためのきずな」「心の豊かさ」をはぐくむことを、判断基準に、商品開発をしています。お客さまとのコミュニケーションを深め、プロとしてお客さまが見えないものまで、掘り起こすことが大事だと思っています。心の豊かさや家族のきずなを培うことができる家づくりという意味で「住育」という言葉を使っています。

<地域コミュニティー崩壊で子どもが孤立化>

中西
 上野先生が文化政策を専門になさるきっかけは何だったのでしょうか。
上野
 現代のコミュニティーの崩壊をなんとかしたいという思いからです。かつての日本は地域で子どもを育てていました。近所に「こわいおじさん」がいたものです。地域全体が教育力をもち、林さんがおっしゃった「住育」のように「地域育」が広がればいいなと思います。
中西
 先生は浜松の都心再生会議の座長をなさっていますね。街づくりと人間については、どんな考えをお持ちですか?
上野
 街は、生活の舞台です。生活することで自信と誇りが持てる街が理想です。街にはいろいろな顔があります。大学の近辺で見ると、東小学校は教育空間、アクトシティは消費空間・文化空間、市役所や銀行はサービス空間です。それらを総合的につないだものが、価値が高い街だと考えます。そんな街づくりが理想です。
中西
 確かに街の空間環境を整えることは、人間の心をつくることにもつながりますね。子どもの世界を考えた街づくりをしてほしいですね。
上野
 文化政策から考えると良い街は生活の質が高い。子どもの生活の質とは、「学ぶ」「遊ぶ」「健康」。ところが今はそのバランスが崩れている。主な原因がゲームや塾。子どもが公園に遊びに行ける状況をつくる社会になっていない。
 そうですね。私たちのように家を作る立場の人間も、1つの敷地内で家と塀で完結する形で作っているのが現状。今考えているのは、5軒から10軒ぐらいの家で共有できる空間。環境を考えた「エコ・ヴィレッジ」を作り、子どもたちが遊べる家づくりができたらと考えています。
中西
 子どもは本来遊びの天才です。その才能を生かす空間作りが必要。今の街づくりが、子どもの想像力を意識しているか疑問を感じるのです。例えば街路樹の植え方。同じ高さの木を等間隔で植えてあるのがほとんど。所々、大きな木を植えれば、その下にさまざまな人たちが自然と集まってくるのではと思うのですが? QOLを考えるには、意識変革が大切ですね。
上野
 今は着実に価値観が変わりつつある。お金をたくさん稼ぐ人もいれば、一方でお金がなくてもボランティアをする人も増えている。例えば公園を作る場合も行政がプロを集めて設計し、遊具や花壇を決める。昔は住民が集まり地域で公園を手作りし、愛着のある場所だった。現在でも地域の人が花の手入れをする場所もありますが、一方で花が枯れると市役所に苦情を寄せる人もいる。自分たちの手で花を手入れしようとする市民を増やす教育も大切ですね。

<少子化で変化する家族>

中西

 民俗学者の柳田國男は幼児期と児童期の子どもの遊びの重要性を書いています。昔の日本では、小さなころは「家遊び」をして、少し大きくなったら「軒端遊び」をして成長しました。遊びの行為の中に、社会へとつながっていく段階が繰り込まれていたのです。遊ぶ空間が子どもの未来を支えていると思うのですが。現代は「学ぶこと」だけが価値のあることのように言われます。上野先生は、家族の持つ価値観が変わってきているとお感じになりますか?

上野
 それは変わってきていると思います。最大の原因は少子化。旧来の日本の家族は父親を頂点にしたピラミッド型。今は家族が点でつながっている。子どもが少ないと祖父母が干渉し、誕生日になると両親と、4人の祖父母の6人からお小遣いがもらえる「シックス・ポケット・チルドレン」という現象になる。子どもと大人の関係が、ネットワーク型になる。一筆描きの「星」のような個別の関係になる。一方通行で終わるのは、家族形態としてはまずいのでは?
中西
 親が子どもを育てる時の価値観も変わっていますか?
上野
 文芸大には優秀な学生がたくさん来ていますが、親の意識として、特に女の子は「1人娘だから東京に出さず育てたい」と言う家庭が多いようです。少子化は親が子どもを囲い込みがちになります。子どもは自分の人生を生きてゆくわけですし、親は親で自分の可能性を追求していくといいですね。林さんにはぜひ、