中西美沙子
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命の輝きをめぐって
  〜いつから私たちは命への思いを見失ったのか〜

▼座談者
野田 垣夫氏 :
聖隷三方原病院副院長を経て、今年2月に産婦人科「クリニックミズソフィア」(浜松市根洗町)を開設。中高生・大学生に「命の大切さ」をテーマにした性教育活動を実践中
林 司朗氏 :
金沢市生まれ。1991年ニューハウス静岡設立。2002年ガイアホームに社名変更。「家族の絆をはぐくむ住まい」をテーマに住宅づくりにまい進。
浜松市小中学校PTA連絡協議会会長
中西美沙子氏 :
執筆・講演の傍ら文章教室「スコーレ」、画廊「キューブ・ブルー」(浜松市元城町)を主宰。著書に中日新聞に連載したコラム「つかまえて!こころ」をまとめた「ピアニシモでね」(東京書籍)


─いじめによる自殺が増える現代。便利になった情報社会に住む子どもたちは、日常生活の中で『生きること』や『命の重み』を感じる場面が減りつつあります。
そこで第8回目となる教育座談会では『命の輝き』をテーマに、それぞれのお立場からの考えを話していただきました。─

中西
 今日は、「命」をテーマにそれぞれのお立場からお話しいただきたいと思います。野田先生は高校や中学校を回って、思春期講座で「性と命」のことを啓発されていますね。反応はどうですか。
野田
 今は、大人が命への認識が少ないように感じます。子どもも当然、命に対して希薄になりますね。私は性教育の最初に象の交尾の映像を見せます。それは性は恥ずかしいものではないという考えを伝えたいからです。性への偏見や恐れの壁を作りたくないからです。「象は恥ずかしいと思っている?」と聞くと、子どもたちは「分からない」と答える。そこから「なぜ」という疑問へと導くようにしています。「なぜ人を好きになるの?」「なぜHなことを考えたくなるの?」「それは悪いことなの?」と自然に性の問題が自分のものになるようにしています。
 PTA連合会の長を務めて色々な情報から考えますと、性の悩みや友人とのトラブルを家族に相談することは少なく、友だちに打ち明けることが多い。親や家族には相談できない現実があります。
中西
 親に話して受け止めてもらった経験が少ないのでは。親も子もコミュニケーションする場がないと感じますね。過保護な親や優等生でないと自分の子ではないと考える親も増えていますし。そんな中では子どもは自分を大切にできないですね。野田先生のお話を聞くと、性についての「おおらかな見解」を感じます。性を避けるのではなく、受け入れながら生きる視線が見えるのです。

■限りある命 そこから考えること

野田
 生命には限りがある。それを大人がきちんと受け止め、子どもと接したいですね。学校でも家庭でも。私たちが死に向かって生きている現実を、小中学校の段階で教えるのです。そのような大人の生命観から、「性は恥ずかしくない」「死や病気も怖くなくなる」という意識が生まれるのでは。子どもたちには「人は死ぬ」、だから「今を精一杯生きなさい」と伝えたいですね。これは草の根運動かもしれませんが、少しでも「生きるとはは何か」を分かってほしいと思い、活動しているのです。
中西
 死は、生きることと同じぐらい自然なことなのに、死ぬことは敗北だと考える社会があります。林さんは家族のコミュニケーションを意識された住宅を建てられていますね。
 地球環境にどんなかかわりができるのかといつも考えています。社名の「ガイア」は「生命体としての地球」という意味。「人と地球とが共生する家づくり」を具体的に実践することから、命への関心が起これば良いと私は考えています。
中西
 その理念はとてもすてきです。子どもたちを見ていると、生きているという実感が薄い。草や花、春先の新芽の膨らみなど、自然の変化も何も見ていない。
野田
 スマップに「世界に一つだけの花」という歌があります。子どもたちが生きるという感覚を持てないのは、自分がこの世の中で、たった1つの存在という価値観が持てないから。子どもたちに、卵子と精子が何億分の1という選択を受けながら奇跡的な出会いをする過程を話し、そこに誕生した生命は「この世界にたった1つしかない君(花)(個性)」だと強調するようにしています。
中西
 荒れる子の家庭は、両親の仲が悪い。母親が「あなたは生まれてこなければ良かった」と言ってしまうケースも。子どもは能天気に見えてもすごくデリケート。自分がかけがえのないものだという肯定がなくては、命を実感できないのでは。
 1つの生命が生まれることは奇跡に近い。その奇跡の中で自分たちが生まれたという思いが欲しいですね。倫理観や道徳観で、自殺やいじめはいけないと言うのは当然ですが、本当の生命観を養うことが大切だと考えます。

■「ここに在る」ことの命の奇跡

中西

 命に触れる場が無くなっているのでしょうか。「命が大切」と言ってもリアリティーを持てない子どもが多い。ある子の作文で「おじいちゃんが亡くなり、弟が身動きできなくなった」と書いていました。このような命の体験は大切。その反面、死ぬということを知らない子も多く、「リセットできる」と話す子もいます。

野田
 何億分の1の確率で出会う精子と卵子。そのような奇跡の出会いを、お金と交換するのは、ごう慢と思えるのです。単に性行為をダメというのではなく、生命というのは必死になっていい遺伝子を残そうとしているのを知るべきですね。人も生き物ですからベストな遺伝子を次世代に手渡す責任があります。
中西
 厚労省の調査では、20歳未満の中絶件数は日割りすると、1日あたり95人。1週間で700人近くです。10代の割合も年々上昇していますね。お話を聞くと、私たち大人が命を見つめ、子どもたちに語る必要があると、強く思いますね。林さんご自身の、命との出会いや体験についてはいかがでしょう?
 生まれたばかりの長女が高熱を出し生死をさまよったことがありました。普段では命の重みを感じる場面は少ないのですが、その時は生を受けて1週間や10日で終わりになってしまうのか・・・と。その体験によって、家族とともに生きたいと強く思う気持ちになりました。
中西
 生む行為には、「生と死」を考えるヒントのようなものがありますね。
野田
 日本では出産は絶対安全という分娩神話があります。このような考えはここ30年ぐらいですが、実際は今でも世界で1分間に1人の母親が出産によって亡くなっています。お産は安全ではなく、適切な医療を受けて初めて安全だということを知ってほしい。医療は非常に不確実な生の中でいかに健康な状態に持ち上げるかということです。そこのところを知らないと、医療不信にもつながってしまう。もっと人間の世界は不確実。生命はそんな中に存在しているのです。だからこそ「命は輝ける」という気持ちを持ってほしいですね。
中西
 人間は万能ではない。「お産は安全。人は死なない。病気は必ず治る」という神話がいつの間にか作られています。治らないと医学の敗北だとか。でも本当はそうではないですね。
野田
 患者側も、感じた疑問は医師にしっかり告げるといいですね。私のクリニックは産婦人科ですが、がんをテーマにもしています。ですからなおさら、患者さんと意識を共有したいと考えています。

■大人の生きざまがきざむ子どもの輝き

中西

 家庭でどんなことをすれば子どもたちの「命への思い」がはぐくまれるでしょうか。私は文章教室で、「書くこと」を通して命のさまざまな問題を考えさせ、また実感させています。

 私どもは考えの根底に、「家族のきずな」を置いています。体に例えると、リビングは家の心臓、そこを通って、家族が血液のように各部屋に行ける設計です。子どもの友だちがいつ、誰が来たか分かり、声も聞こえる、肌で感じあえる空間を作りたいなと思っています。
中西
 楽しくいきいき生きることは、命を大切に思う気持ちをはぐくみます。ガイアさんの家づくりには、始めに人ありきという考えが見えますね。
野田
 子どもたちは親や大人の生きざまをじっくり見ています。いかに子どもたちの前に堂々と自分をさらけ出せるか。いい意味で、裸でぶつかりあった親子は、次の世代にも良いつながりが持てるのですね。
中西
 親が生命感にあふれた生き方をしなくては、どんな「生き方のマニュアル」があっても役に立ちませんね。

中日ショッパー 教育特集(8)
2007年3月29日掲載