エルミタージュ美術館の絢爛たる回廊を巡り、ネフスキー大通りを散策する。日本の銀座にあたるメーン通りは煌びやかなイルミネーションに輝き、その向こうにロマノフ王朝の面影を残した石造りの建物や寺院が透けて見える。教会の鐘の音が聞こえる。過去と現代が、何の違和感もなく交差する街。歩きながら、ロシアは「混沌の中で目覚める国」になる、そんな予感のようなものを感じた。街並みを白系ロシア人だけではない、目の色や肌が違う人々が行き交っている。ロシアとヨーロッパは地続きであるのだ。
短い滞在であったが毎夜、音楽会やバレーに招待された。マリインスキー劇場には正装の人々が、そして民族音楽や舞踊には普段着や勤め帰りの人たちが、長い夜を楽しんでいた。音楽を、構えて鑑賞するのではなく、日常の延長として愛でる文化が根付いているのだ。ロシアの人々にとって音楽は、歓喜する大地への呼び声であると思えた。そしてその背後にあるものは、辺境の地が生んだヨーロッパに対する「文化への憧憬」と、それを乗り越えようとする意志、あるいは矜持ではないかと。音楽会の後。見上げると余韻の彼方に、まっすぐにロシアの大地が連なっているような幻想を覚えた。
中日新聞 しずおか時想
2011年11月28日掲載
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