中西美沙子
ごあいさつ
プロフィール
講演活動
執筆活動
対談・座談
つかまえて!こころ
中西美沙子が主宰するホームページです。
あわせてご覧ください!
画廊キューブブルー
画廊キューブブルー
文章教室スコーレ
文章教室スコーレ
静岡県浜松市中区
元城町 219-16
TEL: 053-456-3770
FAX: 053-456-3795
マップ
お問い合わせはこちらから
ホームへ

 ロシアの古都、サンクトペテルブルクの秋は、短い。金色に染まった枯葉が、冷気の滴でうるんで見える。コペンハーゲン経由で当地に着いた時、10月末というのに初雪が舞っていた。

 国立サンクトペテルブルク工科大学からの要請で、日本文化についてのレクチャーを行った。2009年に続く二度目の訪問である。今回のテーマは、「再生と祭り」。震災の最中でも「東北の祭り」が行われたこととその意味を、日本人の心性の古層とからめて講義した。領事館の通訳エカテリーナが、美しい日本語に訳してくださる。講義後、大学教授や学生からの質問は、もっぱら「FUKUSHIMA」であった。 「震災後、昼も夜も、ロシアの人々が日本領事館前に献花に訪れてくれました」。エカテリーナもそう語っていた。

 サンクトペテルブルクは、ロシアの文化・芸術の中心地。近年は経済の発展もめざましい。私への講義の要請もそこにあったのだろうか。世界の大企業が進出し、日系企業も50を超える。お寿司さんも大人気で、書店には村上春樹の本が平積みされていた。

 



大学のサイトに掲載

     

クレーフェルト市長(右)に日本からの土産の舞扇を贈る筆者(中)と浜松市の山下議長


日本語通訳エカテリーナ着物姿

 

  エルミタージュ美術館の絢爛たる回廊を巡り、ネフスキー大通りを散策する。日本の銀座にあたるメーン通りは煌びやかなイルミネーションに輝き、その向こうにロマノフ王朝の面影を残した石造りの建物や寺院が透けて見える。教会の鐘の音が聞こえる。過去と現代が、何の違和感もなく交差する街。歩きながら、ロシアは「混沌の中で目覚める国」になる、そんな予感のようなものを感じた。街並みを白系ロシア人だけではない、目の色や肌が違う人々が行き交っている。ロシアとヨーロッパは地続きであるのだ。

 短い滞在であったが毎夜、音楽会やバレーに招待された。マリインスキー劇場には正装の人々が、そして民族音楽や舞踊には普段着や勤め帰りの人たちが、長い夜を楽しんでいた。音楽を、構えて鑑賞するのではなく、日常の延長として愛でる文化が根付いているのだ。ロシアの人々にとって音楽は、歓喜する大地への呼び声であると思えた。そしてその背後にあるものは、辺境の地が生んだヨーロッパに対する「文化への憧憬」と、それを乗り越えようとする意志、あるいは矜持ではないかと。音楽会の後。見上げると余韻の彼方に、まっすぐにロシアの大地が連なっているような幻想を覚えた。

 

中日新聞 しずおか時想
2011年11月28日掲載

[ ←back ]

Copyright(C) 2004 Misako Nakanishi. All Rights Reserved.