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だれの星がながれたか2004年・クリスマス会 青さと暗さが重なった夜空を、いくつもの星が流れました。クリスマスイブの夜でした。水色やオレンジ、紫や緑の線を夜空に描いて、流れ星は静かにどこかへ消えていきました。
由宇くんは目をさましました。今日はクリスマスです。ベッドの横にはちゃんと大きなプレゼントが置かれています。赤い紙に金の星がかがやく包み紙が、とてもきれいです。
由宇くんはベッドからおりて、プレゼントの箱をだきかかえました。うれしい気持ちがしました。でもすぐに、なんだか悲しい気持ちにもなりました。十二月の風が窓をコトコトたたいています。由宇くんは音のする方に目を向けました。ガラス窓のふちは白くくもっています。昔の写真のようなガラス窓に、由宇くんの顔がうつりました。
「なぜそんになに悲しいの」。ガラスにうつった自分の顔がいったような気がしました。寝起きの目を、もっと開けて見つめると、ベランダにだれかいます。自分と同じくらいの女の子が、うずくまって部屋をのぞいているのでした。どこか由宇くんににています。その女の子は水色の透き通った洋服を着ていました。見たことのない宝石を、うすいうすいレースにしてかさねたような洋服でした。
「だれだろう」。由宇くんは思いました。ガラスの向こうの子はただ笑っています。 その笑いもどこか見おぼえのあるやさしい笑いでした。その子は、「わたしのプレゼントをうけとって」といって窓を開けました。それから由宇くんのとなりにすわって、今度は「目をつぶって」といいました。由宇くんはいわれる通りに目を閉じました。
目を閉じてしばらくすると、木のいいにおいがしてきました。「目を開けて」。声の通りに由宇くんが目をあけると、そこには明るい森が見みえました。緑の若葉がひかりにもまれているようです。二人は、その森が全部見える丘の上にすわっているのでした。するととなりに、若い男の人がすわっているのに気がつきました。その人は、遠くを見ながら由宇くんに話し出しました。
「きみのおばあちゃんを待っているのだよ」。優しい風が丘の下からふいてくると、きれいな女の人がのぼってくるのが見えます。いつのまにか、由宇くんのとなりにすわっていた女の子は消えていました。その人は、男の人のとなりにすわってほほ笑みました。そして、「またせてごめんね」といってから「じゅうぶん楽しかったわ」とささやきました。男の人も同じように、「そうだね。じゅうぶん楽しかった」といいました。
緑の森のてっぺんで、風がダンスをおどっています。世界のすべての楽しみが、そこにはあるようでした。 由宇くんはうれしくなって、もっと強く目を閉じました。しばらくすると木がくさるいやなにおいを感じました。ゆっくり目を開けると、森はすべてかれて黒い骨だけが悲しそうにたっていました。となりにすわった二人は、まだそこにすわっています。「じゅうぶん悲しいこともあった」と男の人がいいました。「じゅうぶん悲しいこともあったわ」と女の人もいいました。かれた森の上で、火薬がはねる音や戦車の重たい音がうなるようになりました。世界中の悲しみが、そこにはあるようでした。
二人は顔を見合わせて、「じゅうぶん生きたね。私たちの未来のために」と強くいいました。するといやなにおいがしていた森が、また美しい緑の森にかわりました。小鳥たちの声が、お祭りのように聞こえてきます。由宇くんは、心のおくからしあわせな気持ちになりました。
どこかで由宇くんをよぶ声がします。目を開けるとベッドの時計がなっていました。なくなったおばあちゃんが、去年のクリスマスにプレゼントしてくれた時計でした。へやのガラス窓は十二月の風で白くくもっています。のぞいても、そこにはだれもいません。由宇くんの、明るい顔があるばかりです。
「おばあちゃん。ありがとう」。由宇くんはひとこと、心のなかでつぶやきました。 クリスマスイブの夜に流れたあの星たちは、どこに消えたのでしょうか。 [
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