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ことばの力

2006年7月
浜松ロータリークラブ会報 掲載

 ことばは、人と人との関係の中で意味を持ちます。ことばによって傷ついたり、相手の心を計ったりすることで、人は成長するのではないでしょうか。現代。子どもたちや大人でさえも、ことばの齟齬(そご)による成長よりも、齟齬によって傷つくことを恐れます。本当はそこから、人や関係は深化するはずなのに。恐れを解決しないまま、ITを中心とした消費文明の中に埋もれてゆく危険性を孕んでいるのが、今、という時代です。
 「創造力」と「想像力」。クリエーションとイマジネーション。この二つは共に、人間としての価値を作る大切な心の機能です。  
 戦後、日本は飛躍的な経済発展を遂げました。オイルショックやバブル崩壊など、その時々の問題はありましたが、その度に乗り越えてきたのは、日本人の「創造力」の賜物と、私は思っています。豊かな国で、でも、私たちは本当に幸福になったのでしょうか。
 私は文章教室「スコーレ」を五年前から始めました。併せて、ギャラリーも。絵画や美しいものが好き、という理由の他に、「文化度希薄」と言われる浜松で、ここから何かを発信してみたいと思ったからです。教室は、学力や進学のためのものではないものを、と考えました。現代を生きる子どもたちに不足している感覚を、少しでも呼び戻せたらという思いです。今の生徒の多くは学力には秀でています。偏差値教育と塾の乱立のせいでしょうか。でも彼らに、「創造力」や「想像力」を感じることは、余りありません。特に貧困なのは「想像力」です。人は社会的な生き物と誰かが言いましたが、今の子どもには社会の中で生きているという意識や感覚が希薄です。この現象はそのまま、社会のあり方を表していると思えます。「子どもは社会の写し絵」。親殺しなどの少年犯罪の多発に、その悪しき現実が表れています。
 戦後61年の中で私たちが失ったもの、その一つに「想像力の欠如」があるのでは、と私は考えます。他人に対する優しさや場所の感覚、公私が分けられないなど、「想像力」を必要とする力が育っていないのです。家族制度の変化や地域の人間関係の希薄化、偏差値中心の教育などが、その原因の一部でしょう。制度や時代を変えるのは容易しくありません。しかしそこに起こる問題点を「想像」して、よい方向を模索することは、できるのではないでしょうか。
 私の主宰する文章教室では、ことばを通して「考える力」と「生きる力」を生徒は学んでいます。ことばは「想像力」の源。でも今の子どもは、生きたことばを使うことが苦手です。「勉強に役立つことば」に関わりすぎてか、ことばにアレルギーが起こっています。コミュニケーションが取りにくいのも、そこに問題があるのでは。彼らにとってことばは、「楽しいもの」ではなく、「苦痛を与えるもの」としてあるような気がします。
 ギャラリーの絵画を見ながら、「想像力」を巡らす。文章を書くことによって「想像力」を「創造力」に結びつける。私の教室の意図はそこにあります。私が関われる子どもたちの数は僅かです。しかし、その僅かな関わりに、私は可能性を感じています。子どもたちに「想像力」が無いのではなく、育つ環境がなかっただけ、と思うからです。
 経済大国、日本。でも時として、それが砂上の楼閣のように思えることがある。豪華な楼閣の中心で、ことばを失った人々がさ迷っている風景が、見えるのです。

 

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