だが、生徒に「追体験」させるには、それに先立つ確かな経験を指導者側が持ち、それを提示できなければならない。指導者自身が文章を書くのは、テーマについてどのような考察が成り立つかを自ら確認・実践し、それを表現してみせる作業だと言える。 もちろん識者の文章の中にも、そのような使い方ができる文章はある。けれども、それを探すより自分たちで書く方が早いと、金本先生は言う。 その「早さ」は、テーマ選定の自由度を広げる。自分で教材を書くぶん、時事問題はタイムリーに取り上げられるし、子どもたちとの対話から気づいたことをすぐにテーマに反映させることもできるからだ。どのような社会に生きているのかを生徒が意識しやすいテーマ、生徒たち自身が日常の中で悩んでいるテーマ。これらを中心に、時にはテーマ同士の関連性も考慮に入れながら臨機応変にテーマ文が作成される。 時事性や子どもたちの現場に即した臨機応変なテーマのもとで、「考える」プロセスを示す。それは、指導者自身が表現者であってこそ可能なことだ。 ●くり返しの中で視点を内面化 輪読が終わると、生徒たちはそのテーマ文から考えたことを書く。高校生の場合、原稿用紙二枚が目安だが、書く中身やそのレベルは一人ひとり違う。 不慣れな生徒は、まず要約を書くところから。「テーマ文をそのまま抜き出してもいいからネ」と励ます段階の者もいれば、「今度は自分の言葉で言い換えてごらん」と促すべき生徒もいる。さらに書き慣れた生徒であればテーマ文への違和感や肯定感を書いてみるように促すし、テーマに関連する社会科の知識を要約に書き加えて膨らませてもいい。 「読解」「要約」「意見執筆」と一律に進ませるのではなく、それぞれの生徒が、自分の考えられるところで考えればいい、書けるところで書けばいいという緩やかな流れの中で書かせる。それが指導の基本姿勢だ。 だが、それでも「わからない」と立ち往生する生徒もいる。金本先生によれば、そのような生徒には文章というものの組み立てから個別に教えることもあるという。 「『まず、一番印象に残った文を一行書いてごらん』というところから始めることもあります」 |