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パウル・クレー「忘れっぽい天使」1939


 「アウラ」で有名なベンヤミンは、自分の書斎に、クレーの「天使」の絵を飾っていた。旧約の中にある救済のイメージが「アウラ」にはある。  彼は、19世紀が生んだ表現、写真と映画を論じ、それらの複製可能な表現が、「アウラ」を喪失した時代を捉えたと分析した。ベンヤミンの生きた時代は、戦争とファシズムに彩られていた。

 彼は時代の表現を肯定しながら、「オリジナル」が芸術の可能性を拓き、時代と拮抗する力だと述べた。天使の絵には、時代としての精神のビジョン、「アウラ」がある。人は即物的なものだけで生きることはできない。クレーの絵の緊張した線が、それを私たちに告げる。アルトーは、クレーの絵に、「イメージの組織化と意味の探求」を見た。

 ナチに追われたベンヤミンは、スペイン国境の山間で自ら命を断つ。携えていたカバンの中には、書きかけの原稿と、クレーの絵がしまわれていた。その後も、「アウラ」なき時代は、続いている。

 

浜松百撰 2009年6月号

 

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