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マルセル・デュシャン「階段を降りる裸体No.2」


 デュシャンほど、センセーショナルな画家はいないだろう。便器を「泉」と題して展覧会に出品し、モナリザの複製に髭を書き入れたりして話題になった。彼は、「視覚の時代は終わった」と言う。この言葉は詩人ランボーの「手の時代は終わった」に呼応しているのだろう。描くことと書くことへの「絶望」が、そこにはある。デュシャンは「レディーメイド」、市販されているものを使って、多くの作品を残した。伝統的な絵画の価値観の転倒である。取り上げた作品は、「未来派的」な時間意識と「立体派的」なものがミックスされたものである。「下る」という日常としての行為が、詩的なインパクトとして見る者に迫る。日常生活のための器具や身体的な動きを「神話化」するのが、デュシャン。晩年、彼は描くことを拒否するように、チェスをしながら過ごした。美の破壊者は、ゲームという知的な操作の中に何を見ていたのだろうか。ただ「徒労」という時間を消化していたのか、未だに謎である。

浜松百撰 2009年10月号

 

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