フンデルトヴァッサー「大いなる道」(1955年) 私は、「織物」が好きだ。世界の様々な、そして時代を超えた織物へと、私の感覚はいつも傾く。原始的な意匠を帯びた織物に私が惹かれるのは、「生存すること」への直接的な表現が、そこにあるからだろうか。ヴァッサーの絵画は、中東のキリムや、アポロジニの織物と共通したものがある。意味や文学性ではない表現の生々しさが、彼の作品にはあるのだ。知的な操作がなされた絵画と違って、身体的な揺さぶりを、見る者に与える。
「野生の絵画(アーリュブリュット)」。知的な、あるいは精神に障害を持った人たちが描く絵画を言う。かれらの視覚が捉えるものは、歓喜そのもの、怖れそのものである。その感覚は、ヴァッサーの絵画に近似している。文化や文明が見失った、人間の「原初の感覚」を、彷彿とさせるからだろうか。
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