オスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」は、ヴィアズレーの挿絵とともに名高い作品である。サロメという女性の持つ精神の複雑さとエキセントリックな行動は、現代的とも言える。モローの「出現」も、サロメを描いている。サロメのどこに惹かれたのか、モローは多くこのモチーフを描いている。マルコ伝にしか記されていないサロメの運命は、聖書の中でも異彩を放っている。預言者ヨハネの口を封ずるためにサロメは踊りの褒美に彼の首を求める。「出現」は切られたヨハネの首とサロメの劇的な出会いを描いている。しかしこの絵からは、物語性ではない物質と物質とがぶつかった時に生まれる輝きのようなものが感じられる。モローが抽象画の祖先といわれる所以でもある。彼の感覚の系譜にルドンとルオーという弟子がいるのもうなずける。
浜松百撰 2010年2月号 |