不気味、グロテスクなどと彼の作品を見て感じる人は多いだろう。だがその反応がどこからやってくるのかを、問う者はいない。ベーコンが好んで描くものは人物である。その人物たちは、変形され、表皮と内臓が入れ替わったようになっている。むき出しの形体が、見るものに底知れぬ感覚の崩落をもたらす。それは、私たちが安心し見ている世界、言い換えれば「制度」の欺瞞を、あぶり出しているのだ。偏見また良識は、「制度」や「国家」が作り出したものと、彼の作品は告げる。アートを見る感覚すらも、また。ベーコンは、ホモセクシュアルであった。その情動は、彼にとって極めて自然であっただろう。
浜松百撰 2010年7月号 |