クリムトはシーレの師であり友人であった。彼は、師がモチーフにしていた「装飾性」を極端に排し、切り裂くような線で作品を描いている。古典的な表現は、「強い色や線」と「緩やかな色と線」のバランスで成り立っている。シーレの表現は、それとは違う独自のものだ。「つよい」と「ゆるい」から成る絵画は、見る者を安心させる。だがシーレの作品の多くは、「緊張」という絶対的な力で成り立っているようだ。それは、「エロス(性)」の一つのあり方を示唆している。エクスタシーという完璧な忘我状態の近くに、私たちを誘うのだ。装われた日常を剥がし、徹底的に事物の裸身に迫る目が、そこにはある。「タナトス(死)」へと繋がる視線でもある。シーレは28歳の若さで死んだ。人間の身体に漂う死の匂いを嗅いだ、罰のように。
浜松百撰 2010年9月号
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