アナ・ゼマンコーヴァ「無題」
アウトサイダー・アート。この言葉を知ったのは、浜松生まれの現代美術家・中津川浩章氏によってだった。「凄い絵画がある」。彼は、知的障害者の施設で、ボランティアをしていた。障害者らの表現を手助けしながら、彼らの中に優れた表現者がいることに、中津川氏は気づいた。専門的な美術を学んだことのない者の無垢な美が、そこにはあった。
アナはチェコ生まれ。50歳まで専業主婦をしていた。三人の子どもを育て終わると、心理的な不安を抱えるようになった。彫刻家の息子の勧めもあり、少女時代の夢であった「絵を描くこと」を始めたのだ。
アナが描く花や葉が指し示すものは、私たちが失った原始の感覚だ。「花」という言葉を人間が発見した瞬間の、おののきと歓喜がそこにはある。「花」という概念を知った人間は、本当の自然を、美を、直接的に感じることから遠ざかっていったのではないか。アナの絵は、そのような思いに、私たちを誘う。
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