「私の作品と見る人の間には、何ものも介入させない」。ロスコのこの言葉は、鑑賞者として見る人への、警告とも受け取れる。絵画の中にある「物語」に、より多く心を奪われる鑑賞者。私たちは画家の出自、神話や、そこにある事物の意味を求める。だが、優れた絵画はそのような意味のために描かれたものではない。具象抽象を問わずに。セザンヌのリンゴはすでにリンゴではないことを、私たちは知っている。感覚の揺らぎ。「見えないもの」からやってくる感覚が、ただそこにあるのだ。ロスコの作品は、そのような感覚の徹底化である。中でも、色彩と形への彼の眼差しは、私たちに至高な絵画体験とは何であるかを、告げる。彼は1970年67歳にして、自らの生を閉じた。プロメテウスは火を人間に与えた罰により、神から過酷な刑に処せられた。ロスコは美の領域を侵犯した罪で、美の神によって自殺に追いやられたのかも知れない。
浜松百撰 2010年11月号
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