犯罪意識薄い弱い者いじめ高木恵美子 十五日朝刊の「障害者も標的に」を読んで、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を思い出した。あのカンダタでさえ小さなクモを踏み殺そうとするが、急に思い返して、小さな命をとることを思いとどまる場面だ。被害に遭うのはいつも子供や高齢者ばかりだと思っていたが、今度は最も弱い立場の人がひったくりの標的になってしまった。
日本は高度経済成長によって豊かになったが、世の中は次第にお金が一番大切だという風潮になってきた。物があふれ、何でも手に入る時代。欲望を満足させるためなら何をしてもよい、などと自制心のきかない人が多くなった。「我慢」という言葉は死語になりつつある。良い悪いの判断ができず、犯罪意識も希薄になっていないだろうか。
電動車いすの男性は、恐怖のあまり声を出すことすらできなかったという。ひったくられたかばんには、この男性の大切な品が入っていた。犯人は一刻も早くこれらの品を返してやってほしい。
カンダタ以下の人間にならないように。 中日新聞 2004年4月29日掲載 |